発想の連鎖反応


少し前の事になりますが、以下の様な記事を執筆した事があります。

タイトルは「すぐ身近にある未来」、2005年10月の事です。

(ある晴れた日の午後、ウォーターフロントにある芝生が奇麗な公園のベンチに腰掛けた若い女性が雑誌を読んでいます。その雑誌をよく見ると、普通の紙の雑誌ではなく電子デバイスである事が分かります。
通常の雑誌の頁をめくる様に指一本の操作で紙面が切り替わり、また記事の中に埋め込まれた広告は音声付きのビデオになっています。恐らく雑誌は無線ネットワークを経由してダウンロードされた物なのでしょう。するとディスプレイの右上にメール着信のアラートが表示され、それを指でタップすると彼女の母親から次の休暇の予定を訪ねるビデオメールが真ん中に表示されました。彼女は母親に作っておいて欲しい好物料理をお願いするビデオメールを作成し、その場で送信しました。

記憶があやふやで記述が間違っている部分があるかもしれませんが、これは数年前にテレビで見かけた某移動体通信キャリアのCMの一シーンで、近未来の移動体通信の一形態を予見させられる楽しいものでした。

残念ながらオンエアの期間はそれほど長くなく、もしかするとどこかの企業が実際に企画しているデバイス・サービスと余りにも酷似していたのが原因ではないかと思った物でした。

潜水艦の紙マニュアルは潜水艦に積めない、旅客機のマニュアルは機内の座席を全て外して運搬する、通信衛星のマニュアルを一回コピーすると森が一つ消える、と紙媒体が抱える問題点を資源保護の観点から論じた話を聞き、それならば一般に流通している新聞や雑誌が地球環境に与える影響も軽微なものではないはずである、と10年以上前に考えた事がありますが、このCMの様な日常が実現すれば素晴しい事だと改めて考えさせられました。

このような背景のもとに、今回はソフトバンク・クリエイティブ社が最近開始した「万葉」というパソコン向けサービスにフォーカスしてみたいと思います。

例えば著作権切れの昔の名作を有志でデータ化している「青空文庫」という文字ベースの電子書籍(1997年開始)や、週刊誌やコミック誌に強いイーブック・イニシアティブ・ジャパン、写真集等の品揃えも豊富な電子書店「パピレス」(1995年開始)等、ゆっくりと、しかし確実にオンライン書籍マーケットの裾野を拡げているサービスも多々見受けられます。が、この「万葉」が、既存のサービスが採っている”既存の紙メディアの電子化”と言うアプローチではなく、前述のCMに見られる様な電子デバイスならではの特性と可能性を追求しているという点では群を抜いていると思います。

例えば、インタビュー記事中のタレントの服装が時間を追って変わったり、ボタンを押せばそのタレントの音声を聞く事もできます。もちろん、記事中のURLをクリックするとブラウザが自動的に立ち上がり目的のウェブサイトが表示されます。しゃれたレストランやバーを紹介する頁を開くとジャズが流れ出し、広告中の商品写真は色々な視点に自動的に切り替わります。
さらに面白いと思ったのは、複数頁にわたる読み物が見開き2頁に収められ、ボタンのクリックによって頁自体の中身が切り替わる点です。記事の長さに左右される事無く書籍全体のレイアウトを決定できる利点は必ず制作コストの抑制に繋がる事でしょう。
また、イーブック・イニシアティブ・ジャパンでも記事を選択して購入する仕組みが既に提供されていますが、記事毎のアップデートも容易になるでしょう。

さらに、読者の趣味嗜好に応じて表示する広告を自動的に切り替える等のサービスもいずれ出てくる様な気がします。こうして改めて考えてみると、アドビ社によるマクロメディアの買収の意味の一つの側面も見えてくる様な気がします。)

あれからの2年。その間のBLOGやSNSYouTube等新しいサービスの普及には目を見張る物があり、しかしながら同時に様々な弊害も見られる様になって来ています。
投稿ビデオサービスへの違法コンテンツの流出はもちろんの事、例えば私も参加している日本のMixiは今では1,200万人以上のユーザを擁しており、頻繁に残される足跡を辿れば「私はこれで儲かりました、貴方も如何?」と、スパムメール改めスパム足跡が沢山残される様にもなってきました。またBLOGの世界でも、迷惑コメントやトラックバックに加えて、コピペブログやスパムブログとも呼ばれる、例えば大手ニュースサイトの記事をそのままコピーして貼付けただけの偽エントリー等が溢れる様にもなってきており、サーチエンジンの検索結果を希薄な物にしています。

この様な、新しいメディアのフレームワークを逆手に取ったスパム行為は残念ながら後を断たないのでしょうが、そのフレームワークや新しい技術やサービスを上手く融合し活用する事によって例えばこんな事が実に短期間に実現できる様になりました。2年前の記事執筆時には想像もできなかった事です。

これらの技術やサービスのお陰で、発想した事を即時的に具現化でき、さらにそれが新しい発想を生む。ほんのちょっとしたアイデアがビジネス的にも社会的にも大きな潮流の源にもなり得るのだと、久しぶりにJava Scriptと格闘して作った頁を眺めながら、これからの展望に思いを馳せる次第なのです。

古い記事中の電子雑誌とまではいかないにせよ、この様な形で地域メディアそのものであるケーブルテレビ局が保有するコンテンツを実に簡単に発信する事が出来る訳であり、ケーブルテレビ局内の業務フローとの整合性の確立や各種権利処理の問題さえクリアできれば、遠く離れた故郷のコンテンツが一気にインターネット上に溢れ出す可能性があると感じ、その可能性に興奮さえ覚えるのです。

写真:実に久しぶりに矢渡しの射手を勤めさせて頂きました。矢渡しの緊張感や張りつめた空気は何とも言えず良い物です。矢渡しからこの日の射会を通じて、何と一中もする事無く、先月の8中がまぐれだった事を自ら証明する結果になってしまいましたが、程よい疲れが残る良い一日でした。