中れども離れ美しからず、引分けに苦しむ


調子が良くなって来た肩の様子を見つつ、久しぶりにうっすらと汗をかくほど弓を引いてきました。ここ4年程、弓力17Kgの弓を引いていますが、稽古の後半では余計な力を使い過ぎた為に筋肉が震える程になり、初めて自分の弓を強過ぎると思ってしまいました。いずれは20Kg位の弓を購入したいと思っていた私ではありますが、このように稽古も休みがちなままだと、暫くの間は到底無理であると諦めざるを得ないのでした。

久しぶりの稽古故に、射の基本である射法八節の一つ一つとその間の流れをいつもよりも意識しつつ、巻き藁と的前行射を交互に合計2時間、やはり肩の調子は本調子にはほど遠かったものの、実に充実した稽古の時間を弓友や先生と過ごす事が出来ました。

弓道を嗜まれている方にとっては基本中の基本であるが故に釈迦に説法になってしまいますが、射法八節とは一連の射の行程を一本の竹に例えて、足踏み、胴造り、弓構え(ゆがまえ)、打起こし、引分け、会、離れ、残心(残身)に分け、それぞれが竹の節の様に連続していて、且つそれぞれの行程が前の行程のもとに成り立っている事を示している言葉で、基本ではありつつも、絶対忘れてはならない弓道の技術的な神髄でもある訳です。
従って、稽古の際には例えば「離れ」が悪いとついついその一点のみに着目して修正を試みてしまいがちなのですが、本当は離れに至る前の行程にこそ問題がある事が多く、一見して単純な動作で成り立っている行射であるが故に、そこを追求して行く事に難しさと、そして楽しさがあるのだと個人的には思っています。もちろんその時々のレベルで感じた事であると予めお断りした上で言うと、何年も弓を引いていて「会心の射」と呼べる射には実に1〜2回しか出会った事が無く(しかもそれらは全て外れ)、それを求めた果てしない稽古をこれからも続けて行く事になるのだと、将来に渡って年齢を重ねても続けて行けるという点において私にとって大変良い武道に出会えたと嬉しく思うのです。

私が稽古をしているのは、横浜市栄区の公園の中にある弓道場で、確か6年前の春の事になりますが、最初にその道場を訪れた時には聞こえ来る鶯の声に彩られた射場の余りの美しさに「胸がときめいた」憶えがあります。そして今なお、当時と変わらぬ美しさが保たれ続けているのは、ひとえに道場の管理人でもある弓友会の先輩・先生の皆さんの努力の賜物である訳ですが、少しずつ弓道の事を学ばせて頂くにつれ、戦国の世に武器として広まった弓をもとにして何十年何百年という時間をかけて今日の弓道が形成されてきた事を知り、また関わってこられた先人の並大抵ではない努力があったであろう事を想像し、こういう伝統文化をもつ日本に生まれた事を改めて感謝する訳です。ただ、一言で伝統文化の継承と言うのは大変簡単ではありますが、それを体現して実行され、私の様な出来の悪い稽古も休みがちな弟子に対しても、いつも朗らかに一生懸命指導をして下さる道場の先生・先輩のご尽力には心底頭が下がる思いがするのでした。


弓の道場にはいささか不似合いなハイテク練習方法ではありますが、巻き藁での練習を撮影しました。映っているのは胴造り直後から離れまでです。

さて、ゴルフのスイングチェックではありませんが、道場の先輩の協力を得て射の運行をチェックする為にデジカメで動画を撮影してみました。特に弓を掲げ上げて両手を左右に拡げて行く「引き分け」の途中の「第三」の時の上体の傾きや、離れの際に両腕が横S時になってしまっている事等、悪い所(ばかり)が一目瞭然に分るビデオです。これは、まだ治りきらない右肩の痛みだけが原因ではないと分っているのですが、その後の「離れ」に至るまでその乱れを引きずってしまっています。このビデオによって、私が通う道場の先輩の指導力に疑問を持たれる事の無い様に申し添えますが、これらは何度注意され指導を受けてもなかなか直せない私の悪癖です。

時折、道場で目にする弓道誌でみかける高段者の射のスナップ写真、もちろん到底真似等出来る筈もありませんが、美しい風景に心奪われるのと同様に、そのような射を集めたビデオがあれば是非とも拝見したいと思うのです。もちろん弓道の稽古をしていない人にとって見れば、「へー、凄いね」で終わってしまうものかもしれませんが。
もしも、私が勤める会社の事業が日の目を見る事になり、そのようなコンテンツを集める枠組みが作れたなら.....。地方審査の矢渡しや各種大会での美しく品のある射を集めた様な、弓道チャンネルの様なものを是非とも実現したいと夢想するのでした。心の奥底の何処かでは、いつかそれらの高段者の仲間入りを果たしたいものだと密かに考えつつ.....。

写真:会心である事はおろか、良い射でなくても中る時は中るものです。久しぶりの行射でしたが、珍しく半分以上の的中率でした。安土に初めてカメラを持ち込んで、矢所を撮影してみました。写真は何とも嬉しい皆中の時の的です。