貝のアンダースー

干潮で露出した岩や石ころだらけの海岸を歩く。岩のあちこちには、ミナ(長崎の方言名、蜷貝やシッタカとも呼ぶ)が沢山へばりついていて、一つずつ持って来た篭に入れていく。やがて夕暮れを迎えようとする海辺に、穏やかに寄せる波の音と、老いた母や子供たちとの牧歌的な時間がゆっくりと流れていく。以前少し触れた長崎県壱岐島での一コマである。

さて、持ち帰ったミナは何度か水洗いをし、塩をした大鍋で一気に茹でる。その後はめいめいが針や爪楊枝を持ち寄り、一家総出で剥き作業である。集中をしながらも笑い声が絶えない時間だ。やがてあれ程大量にあったミナは、途中での摘み食いも合わさって、貝殻を除いてしまうと驚く程の少量になっている。まだ温かさを残したその剥身を前にしてもグッと我慢、最後の仕上げが待っている。

少量の油をひいて熱したフライパンに、ミナの剥身と、酒、味醂、そして味噌をこの順番に加えて混ぜ合わせる。貝の身に味噌が十分に馴染んだ頃には、何とも言えない良い香りが漂いはじめている。この辺りで、唾を飲み込んだ方は恐らく相当の海好きではないか。もちろん酒のツマミに最適だが、最も贅沢な食べ方は炊きたてのご飯にたっぷり味噌炒めを乗せた丼である。沖縄の夜光貝や高瀬貝は、個人的にはアワビやサザエよりも美味しいと思っているが、それにも劣らない素晴らしく美味しい貝である。

食糧難の昔、沖縄の漁村では貝に味噌を混ぜ合わせて増量する事もあったと聞く。豚のアンダースーは、有難く豚の命の全てを頂く最良の知恵でもあったろう。その二つの長所を取り入れた沖縄産の小貝による、その名も「貝のアンダースー」。ヘルシー志向の現代にピッタリな、沖縄の特産品にならないだろうか。

琉球新報 2011年11月3日 コラム「南風」より)