ビジネス界の礼儀作法


雑誌の記事をXML化する事によって、読者が興味がある連載や特集のみを購読できるようにしたり、場合によっては雑誌をまたがって記事を選択し読者独自のオンラインオリジナル雑誌に仕立て上げる、というサービスが出来ないか考えた事がある。後者の場合は記事のソムリエとして読者自らが編集長となる事によって、もしかすると読者も利益を上げられるサービスになるかもしれない。

また、購入した雑誌の任意の頁に記されているコードをスキャンする事によって、切り抜きを保管できるようなASPも面白いのではないかとも考えた。
これらのいずれの場合も記事の内容が予め明確になっているため、読者に最適化した広告を届ける事も可能になる。
かれこれ約3年前の事である。

そのような背景があったため興味を持って成り行きを見ていた、10月にスタートしたばかりのエニグモによるサービス「コルシカ」が開始早々苦境に立たされている。
このコルシカは雑誌スキャン代行兼サーバ蓄積サービスとでも呼ぶべきもので、ユーザにはオンラインでは閲覧のみを許可し、コピーや印刷を出来ないようにするだけでなく、契約ユーザの数だけ実際に雑誌を購入するという事で著作権の侵害を回避するつもりであったようだが、著作権の解釈はともかく、コルシカの場合はビジネスモデルと一言では片付ける事が出来ない根本的な問題が存在する。それは、汗をかいて取材をし、地道に記事というコンテンツを作成してきた出版業界への新規参入者としての敬意の欠落である。

実際に雑誌を購入するのだから出版社に損は無いだろうというエニグモの主張はユーザにとって一見正しいようにも映るが、不況に喘ぐ出版業者が求め模索しているものは、現在の事業が−(マイナス)にならない事ではなく、減少していく読者の絶対数を埋め合わせる為に如何に+(プラス)を出すかという方法論であり、その観点ではエニグモのビジネスモデルはパイを増やす事にどれ位の貢献が出来るのか疑問が残るばかりか、仮にこのサービスが広まれば既存の書店さえも敵に回しかねない。

私の数少ない経験からすれば、出版業界は新しいビジネスモデルやインターネット業界の若い企業に対して、取り分けて閉鎖的・排他的であるということは無い。米国でのGoogleと出版業界との論争や、一時期のLivedoorのメディア産業に対するアプローチの失敗に学ぶべき事は多いのではないか。
もっともエニグモが、出版業者と共に未来のための打開策を見つけるための議論のテーブルに着くための手段として、今回のサービスを開始したという事であれば、ひょっとすると功を奏したと言えなくもないのかもしれない。

トップ写真:休刊して10年の月日が流れてしまった「Yachting誌」。当時乗っていたY24を見本にしたクルーワークの解説が載った号等は未だに宝物、月刊誌にこれ程までに密度の濃い情報が掲載されていたのかと、つくづく感心する。