第二の人生?もう一つの生活?

日本語に対応する少し前辺りからの、テレビでのニュース番組を始めとする他のメディアでの報道合戦も一息ついた間のある「Second Life(以下SL)」。

SLの、その仕組みや機能は良く考えられたものだと思います。間違っていれば是非ご指摘頂きたいのですが、SL仮想空間の中で自分の分身(アバター)を生活させ、現実の通貨で購入した仮想の土地や、購入した人から借りた場所や店舗で、自分のアイデアによる服飾品やサービスを販売する事等によって得られた利益を現実の通貨に再度換金する事によって現実社会での収入にする事も出来る、ある意味映画の「Matrix」を彷彿させなくもない、意識が現実と仮想を行き来する様なネットワークを活用したサービスだと私は捉えています。ここに、例えば大手企業が看板広告を出したり、ゲーム感覚で新車をアバターに体験運転させる事によって販売促進に繋げる動きが出て来ている事等から注目を集めている訳です。みずほコーポレート銀行は来年のSLにおける通貨流通量が1兆円を超えるとの予測を発表していますが、その活発なユーザの行動にはまるでゴールドラッシュの様な凄まじさを感じてしまいます。

最近発表されたあるアンケートの結果によれば、SLでやりたい事のトップに「土地を購入したい」が「分身を作りたい」に並んでトップにランクインされており、“もう一人の自分”にはせめて“仮想世界では不動産を”持っていてもらいたいと、現実世界ではなかなか実現し難い夢を託している様な気がして少しだけ物悲しくも感じました。

女房子供に手を焼きながらも生きている私はと言えば、もう一つの生活をエンジョイしたり、仮想空間からの副収入に期待する様な余裕もモチベーションも到底持てないのが現実なのですが、現実世界では多額の投資を必要とするテレビ局をこの仮想空間内で作ってみるのは面白そうだと思った事もありました。機会があれば何処かのケーブルテレビ局に提案をしてみたいなと考えつつも、具体的な絵が描けないままいつしかそのアイデアはそのままお蔵入りしてしまったのですが、既にTVステーション島というものが存在しているらしい話を聞くにつれ、誰でも考える事は同じなんだと納得したのもつかの間、最近では旅行業者がSL内でSL内の名所を案内する旅行代理店業務を始めたりと、笑ってはいけないのでしょうが実に下らない馬鹿馬鹿しい事が進行しているのだなと驚いています。将来、「お前は現実世界での営業成績が悪いから仮想世界に左遷だ、SLで実績をあげて来なさい」等と言う辞令が下される日が来るのかもしれません。もっとも、もしそういう世界が現実で且つ一般的なものになってしまったとしたら、私は長年親しんだ愛機PowerBookをスクラップにするかインターネットへの接続を一切ストップして、沖縄か長崎の田舎にさっさと引っ込んでしまうでしょうが。

さて大変唐突かもしれませんが、私はこのSLを知った当初、Matrixの他に実はタイムマシンを連想してしまいました。その心は実に簡単、そう、SLの仮想空間の時計を過去に設定すれば良いのです。もちろん、実際に過去に旅行して既に亡くなった人に会える訳ではなく、そこに「居る」のは現在を生きている人のアバターですから、厳密な意味ではタイムマシンと言えませんが、例えば当時の社会や生活を忠実に再現したり、当時の技術レベル以上の事が出来ない様に制限をかけたりする訳です。中世バージョンのSL、原始時代のSL、ビジネス的な問題を無視して考えれば技術的には実現可能な事でしょうし、もしかして教育的な効果も得られるかもしれません。

しかし...。

もしもSLの運営企業が、その意思に於いて自由に時代や世相までもをコントロール出来るとしたら、それはそれで恐ろしい事になるのかもしれません。例えば、時代設定は1930年代後半。仮に敵対国のアバター同士の関係が現実世界に影響する様な事があれば...。

最近では、環境問題をSLで教育しようと言う事業も出て来ている様ですが、私としては子供達への環境教育には、私自身が沖縄の海で目にした珊瑚の白化現象に驚いた様に、やはり日の光の下で自然に触れさせるのが一番であると思います。別にSLに恨みや特別な悪感情を持ち合わせている訳ではないのですが、「ビジネスモデル」や「面白いサービス」や「インターネットの新しい流れ」だけで済ませてはいけない事もあると、小声でつぶやいてみるのでした。