朽ちゆく宝

友人から、那覇のホームセンターにサバニが置いてあるとの情報を貰った私は、早速仕事帰りに立ち寄ってみる。よく見ると件の舟はサバニではなく、大正時代に和船の長所も取り入れて考案された、奄美大島のアイノコだった。サバニは他の地域の海事文化に強い影響を及ぼしてきたが、アイノコはその最も身近な例だろう。

様々なご縁を辿って、船齢60年になると言うサバニを頂く事になった。が、舟底は真っ二つに割れ、舳先も艢にも蟻が巣を作ってしまっているため、朽ち果てて半ば土と化している。サバニの先輩や仲間からは、修復は不可能だからこの舟はそっと眠らせてやるのが良いとの意見を貰った。

さて、帆掛けサバニは、例えば舟底の形状の些細な変更でさえ乗り心地や耐波性能を大きく左右する。手作りである木のサバニは全てが違う舟であり、従って廃棄した舟は二度と蘇る事はないため、その特性は永遠に失われてしまう。60年前の匠の技が残した、沖縄の大切な宝物でもあるこのサバニでセーリングし、また何とか形を記録として残したい。舟作りは全くの素人の私だが、仲間の意見に反して、自分で少しずつ修理をするという衝動を抑えられなかった。

そんな私に南城市の複数の知人が、駐車場の一角の提供、舟形の計測、補修材の調達等で協力してくれると言う。もしこれに加えて、地域の行政機関や学校の協力が得られれば素晴らしい。

作業が進むに従い、奄美のみならず遠く諸外国まで強い影響を与えたという、古の舟大工の息吹と丁寧な仕事が伝わってくる。修復作業はサバニの工法や特性を紐解いている様でもあり、常に驚きと感動に満ちている。修復の過程はフェイスブックやブログで随時公開中、私の名前ですぐに見つかる筈だ。是非ご高覧頂きたい。

琉球新報 2011年12月19日 コラム「南風」より)