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帆掛けサバニの魅力

サバニ帆漕レースのスタートである慶良間の島々は、どんな言葉によっても表現し尽くせない美しい海を湛え、そのエメラルドや砂浜の白と対局をなす黒い船体や赤茶けた帆は、この世の物と思えない程の存在感をサバニに与えている。沖縄の海辺に普遍的に存在し人々の営みと密接に関係していたサバニは、他のどこにも存在しない強烈なオリジナリティーを伴って我々を魅了し続けている。

最初に帆掛けサバニを教わった八重山のメンバーはヨット乗りの私に、サバニをヨットの様に操船してはいけないと注意してくれた。両者に根本的な帆走機構の違いはないが、その成り立ち自体が違う事を後に理解した。例えば、普通のセーリングボートと違ってサバニの帆柱は極端に前にある。この違いはサバニが漁船であり、且つ物資を運搬する役目を持っていた事に起因している。特別でない、かつての沖縄の日常の物事が、何と多くの人の心を鷲掴みにしている事だろうか。
私のサバニチームも然り、実は県外にも多くのサバニ愛好家は存在するが、一方で帆掛けサバニの魅力どころか、その存在さえ知らない県民が多い事に驚かされる。本土や海外からの旅行客が喜ぶ観光資源は、実は新しく開発するのではなく、既にあるものを如何に活かすかがより重要なのかも知れない。オリジナリティーの大切さが理解された時に始めて、沖縄の観光産業は次のステージに移行出来るのではないかと思うのだ。
9月4日、40艇の帆掛けサバニが一斉に座間味〜那覇の海を渡る。廃れ失われようとしていた大切なサバニの記憶を、レースという形で残す事に尽力し続ける諸先輩方への感謝の念とともに、琉球が産み育んだ素晴らしき人類の財産に関われている事を至上の幸せと感じているのだった。少しでも多くの人にその姿を見て貰いたいと強く願う。


琉球新報 2011年8月24日 コラム「南風」より)