航空運賃は妥当か?

幼少期の殆どの夏を島で過ごした私にとって、石垣島や隣接する竹富島は筆頭に上げたくなる様な大好きな島である。沖縄本島ではもしかして既に失われてしまったのかもしれない、南国独特の空気をたたえ、また八重山そばや海産物、そして果物等の食べ物も非常に美味しいところでもある。ご存じない方も恐らく多いのではないかと思うが、青い空に映えた赤瓦の上のシーサーの焼き物や民家を繋ぐ白い小道等の、本土の人間が沖縄に直結させているイメージの多くは竹富の風景である。

琉球大学で学んでいた頃から既に、その石垣島に新たに空港を建設する事の是非は大きな議論となっていたから、この問題の発端はかれこれもう30年以上も前の事になる。当時の生物系の教室の何人かの教員が、環境破壊に対して一定の懸念は示しつつも、一概に反対する事は出来ないと語ってくれた事が印象に残っている。何年も後に、サバニ大工の新城さんを訪ねる事になる白保のアオサンゴやノウサンゴがクローズアップされたのもその頃だったはずだ。

ところでこれまでの仕事の経験を振り返ってみると、山陰と四国を除いてこれまでの仕事の中で色々な地方を訪れる事が出来た私だが、ビジネスの一方で、独特な地元の食を知り文化の片鱗に触れる機会を得たり、また現地の人と傾ける杯は最高に嬉しいものであり、社内で出張の必要がでた時にはむしろ自ら進んで名乗り出ていた。そんな出張好き、そして旅行好きの私ではあるが、プライベートな旅行と言えば親戚の結婚式や法事等に出かける程度で、純粋な旅にはここ何年も出かけていない。家族を抱えた同年代の友人先輩諸氏も同様ではないだろうか?私にとっては、そこには何と言っても最大のボトルネックである移動コストという問題がある。日本国内の移動は、とにかく「高い」のである。死ぬまでに一度は伊勢神宮に参りたい、と言われていた大昔とは時代が違うはずである。

新石垣空港が必要とされた理由の柱は、本土を結ぶ大型の直行便のニーズであったと記憶している。

しかしながら私は、仮に現状の航空路線が地元石垣島の活性化に寄与しきれていないとしても、決して直行便の有無だけが問題ではないのではないか、と感じている。例えば、今日現在の羽田ー石垣のJALの正規料金は片道で59,470円、那覇経由の乗り継ぎ便であってもその料金に大差はない。いつかは家族を伴って石垣島旅行と考えつつも、これでは懐具合がそうは簡単に許してはくれない。即ち高い航空運賃が、潜在的な石垣島のチャンスを摘み取ってしまっているという事は無いだろうか?

直行便は鮮度が命である特産品の空輸に専念し、人間はより安価な乗り継ぎ便で島に渡れば良いのではないだろうか?品物の輸送効率は各段に向上するだろうし、石垣島まで出かけようという時間にも心にも余裕がある人間が、那覇空港のロビーでほんの一休みする事を疎う事もそうはあるまい。
もし本当に各航空会社のいかなる経営努力によってもその料金を下げる余地がないのだとすれば、地元に金銭を投下して徒に無駄な公共事業を増やすのではなく、仕事か観光かの如何に関わらず、航空運賃の補助によって、石垣のみならず日本の辺境の地の観光開発を促進する様な政策は実現出来ない物だろうか。

明日は新石垣空港設置許可取消訴訟の判決が出るとの報に触れ、思いつくまましたためてみた。

トップ写真:初恋のサバニ「うなぢゅら」で石垣から渡った竹富島にて。