いばらの海


最初にお断りしておくが、私は辺野古への基地誘致容認に関して賛成・反対の如何なる姿勢を示している訳ではない。
ヤンバルに生涯の友と呼べる幾人かの友人と潜水漁の師匠がいる関係で、必要以上に神経質に事の成り行きを見守って来た一人のナイチャーである。

さて、今日の沖縄県名護市長選挙で、辺野古への米軍基地移設に明確な反対の姿勢を示す稲嶺候補が勝利した。

13年に及ぶ基地問題に関する、市民投票と市長選の投票結果が初めて整合的になった事を受けて、本来であれば今後は辺野古の代替案の模索と普天間基地の固定化の解消に政府内の議論の焦点が移っていくのだろうが、現実はそうではあるまい。

現行案を履行させようとする米国からの圧力に加えて、予想される新しい移設候補先の自治体・住民からの反発、そして沖縄県内に渦巻く普天間基地固定化の懸念などを考慮してか、現時点で明確に辺野古移設中止を明確に言及しているのは稲嶺新市長に加えて社民党党首以外には見当たらない。更に、選挙結果が明らかになった事に呼応するかの様に、2chTwitterでは、基地を受け入れないのならばこれまでの北部振興策による補助金を返還すべき事を認識しろと言う、何故か名護市民に対する意見が一斉に流れ出している。
また、市長選挙の得票差にも現れている様に、基地受け入れ容認派でもありこれまでの経済発展の効果を前面に押し出した島袋氏に対して、決して稲嶺氏が圧勝したというふうに見ている人は居ないはずである。そう言った意味では、地元の意識が必ずしも統一されているとは言えず、この様に考えてみると稲嶺新市長の基地問題に関する公約が実現される可能性は極めて低いのではないかとさえ思えて来るのである。

簡単には活性化は出来ないと見られている名護市街地のシャッター通りに代表される地元経済の振興や雇用確保に関しても、基地誘致の実施如何に関わらず、今後は新体制による施策やその結果が今以上に問われてくるだろう。

このエントリーのタイトルでもある「いばらの海」は、決してキャンプシュワーブ付近の砂浜に巡らされた鉄条網を指す事だけを目的としてはいない。むしろ、基地の受け入れ拒否を表明した民意に基づいて市政を執り行っていくであろう新体制が乗り越えねばならないこれからの長く険しい道を指しており、また自然保護の観点で基地受け入れ拒否の一つの論拠としてのシンボルとなってしまった辺野古の海の未来を形容した言葉でもある。

美しいあの東海岸の海に、いつの日か穏やかで平和な時間が流れる様になるのか、今回の選挙は大きなターニングポイントであれども、まだ単に小さな一歩を踏み出したに過ぎない。

トップイメージ:基地建設反対派の方々のブログ「ちゅら海を守れ!沖縄・辺野古で座り込み中!」より拝借