大人も楽しめるスポットとうどん依存


石川県能登のとある有名な旅館の社長の講演を聴いた事がある。
成功した一軒の大きな旅館が、地元の食材業者や、各種消耗品店、果ては新聞販売店に至るまでの、地元に及ぼす経済効果には絶大なものがあるという例を聞かせてもらった。

その中でも印象に残っているのが、直接的には関係ない宿泊施設の稼働率
確か60%前後という数字を聞いて「有名な旅館でもそんなものか」と最初は思ったのだが、飲食店と違って相席という概念が存在しない旅館でこの数字はほぼ満室を意味すると言う。旅館・ホテル業界の人にとっては当たり前かもしれないが、何故なら例えば定員が3人の部屋に2人で宿泊している場合で67%になるので、このパターンで全室が埋まっても70%を越える事は無い。つまり、60%という数字はほぼ満室、70%は間違いなく満室に近い事を意味するからである。

出張で見知らぬ土地を訪れた場合に、なるべく地元の人が集まる店での地元特有の料理を求めて繁華街を彷徨ったり、或いは地元企業の方と遅くまで飲み歩く事が多い私の様な人間にとっては、これまではホテルや旅館は単なる寝るためだけの場所だったが、その社長の話を聞きながら、日本が誇る上質な旅館業のサービスを知らずに過ごして来ている事を少し恥ずかしく思ったものだ。


さて、毎年拝見しているじゃらんの宿泊旅行調査。先日、2008年度バージョンが発表されたので早速ダウンロードして目を通した。以下は、私なりの独断と偏見に満ちた勝手な感想である。

相変わらず一つの施設で県全体の観光客誘致数を牽引している千葉のテーマパーク。
子供にとって良い遊び場である事は、自分の子供を含めて一般的な世間の反応を見ても容易に想像する事が出来る。上の子供が未だ小さい頃には1度ならず何度も運転手として付き合わされた事がある為、配慮の行き届いた質の高いテーマパークである事は理解しているし、そう言った意味では、「子供(と若者)が楽しめるスポットや施設が多かった」県として、千葉県が2位以下を圧倒的に引き離している事も理解出来なくはないが、何とこのテーマパークでは「大人も楽しめる」部門でも一位だと言う、私には理解出来ない結果になっている。

香川の讃岐うどんは、「地元ならではのおいしい食べ物」部門で引続き一位ではあるものの、昨年と違って二位とは僅差である。もちろん「うどん」の丼そのものだけが観光客の評価を高めているのではなく、例えばその店の佇まいや周囲の景観、そして地域に暮らす人々との何気ないやり取りや会話があってこそ「うどん」が更に引き立つのだろうが、いずれにせよ「うどん」だけで観光産業を牽引するのも自ずと限界があるはずで、海や山と言った自然に恵まれた香川県は、近年のこの注目度が低下する前に何らかの新しい潮流を作って欲しいと思う。


それにつけても多くの設問に於ける沖縄県の強さが際立つ。
とある地元の広告代理店の方との会話の中で、彼が沖縄ブームはもう去ったと理解していると思わせる節があったが、これからは同県の表面的な観光資源に留まらず、地域文化を更に掘り下げた、そう言う意味で「深みのある」旅行を求める人が出て来るのではないだろうか。
また一般的に「日本人は(欧米型のバカンスを基準にして)リゾート滞在が下手である」と言われるが、「魅力的な宿泊施設が多い」との評価を得ている沖縄県が、沖縄ならではのホスピタリティに富んだ上質な宿泊施設での静かで穏やかな時間を提供する事によって、働き過ぎの日本人がリゾートで心身を癒す習慣を全国に提案しているという事はもっと注目されるべき事なのかもしれない。

トップ写真:最近数年間で訪問する機会が急に増えた大分のアーケードにて。日本には、まだまだ私が知らない地域の歴史や文化が溢れている。