デジタルサイネージの視聴率


デジタルサイネージの可能性は大きい。
デジタルサイネージの用途として誰もが簡単に想像できるものに、店頭での商品紹介や、施設での会場案内、交通機関での情報提供や、空港等でのCM放映、そして街頭での各種情報の配信や、地域行政機関からの情報告知等があるが、昨今の端末価格の下落やネットワークの普及に伴って、それら以外のあらゆるシーンでのコンテンツの提示が可能になって来ているからである。


二人で久しぶりの寿司屋に入った私は、もちろんカウンターに陣取る。

ネタを一見しただけで何の魚なのか分からない連れの女性に対して、私は「ネタケース越しにその切り身を指してごらん」と教える。怪訝そうな女性が、それでも私の言葉に従うと、今まで透明だったネタケースのガラスがサッと曇り、その数秒後にはそのネタが何の魚であるかが写真とテキストで表示され、しかもいつ何処の漁師が釣り上げたかまでもが情報として現れる。更に、彼女が漁師の名前に指で触れると、何とそのインタービュー映像までもが流れ出し、話している漁師の言葉が音声認識されてテロップとして右から左に流れて行く。驚いた彼女が、もう一度ネタケースに触れると、今まで表示されていた情報がフェードアウトしながら消えた。
同じくネタケース近くに設置されたメニューに私が触れると、私の指紋を認識したメニュー表面のリーダ/ディスプレイが、それまでの「お品書き」の表示から瞬時に私宛に蓄積したビデオメールを表示し始める。客先からのクレームメールが流れ出した時点で慌ててメールを閉じ、コップに注がれたビールを一口あおる。
もちろん、この場合の女性は、家人か或いは大きく成長した娘という事になるのだが、こんな空想の様な映像配信サービスも実現出来る時代が直ぐそこまで来ている。


ところでデジタルサイネージは、ウェブをインタラクティブなものだとすれば一般的には片方向のメディアである。コンテンツの配信側、或いは視聴側が何らかの意図によってコンテンツの選択や取捨を行ったとしても、そのコンテンツを見た後の行動が直接的に次のコンテンツの選択に影響したり、またその行動そのものを把握する手段は基本的には存在しない。

私が知る限り、コンテンツの再生時に前後して表示されるQRコードを携帯電話で撮影する事によって視聴者の傾向を把握したり、またその際に付与されるポイントを広告主のビジネスでクーポンとして利用する事によって、広告主が視聴者を把握可能とするソルーションを知人の会社が提供しているケースがあるが、これが現時点では恐らく唯一の「デジタルサイネージの双方向化」の手段ではないかと思う。
数ヶ月前の事になるが、スタンドに並んで置かれた商品のカタログを手に取った時、その動きをセンサーが感知して関連する映像が上部のディスプレイから流れるという仕組みを見た事がある。がこの場合、カタログを取るという行動の、きっかけと結果が残念ながら逆転しているため、厳密な意味では双方向なデジタルサイネージではない。また、同時に複数のカタログが複数の人間に取られた際には映像の提示や効果測定さえも難しい。


クリックや視聴率でその効果を把握出来ないデジタルサイネージの普及には、広告収入モデルからの脱却の抜本的な手段が無い現在では、この効果測定が不可欠である。と同時に、効果測定と、それによる双方向化が一般的になった時こそが新聞、ラジオ、テレビ、そしてウェブ等の既存のメディアの隙間を埋め、一般家庭にまで入り込む事が出来る第5のメディアにもなり得るのではないか。
例えば、県外にCATVのコミチャンを配信する、海外在住の国民に日本語のコンテンツを流す、見たい番組だけが流れるプライベートチャンネルを作る、好きなプロスポーツチームのゲームや、贔屓のタレントのコンサートが延々と流れる専門チャンネル、また通信販売や商店街の特売情報等、双方向化したデジタルサイネージが家庭に入り込む時にこそ、その適応範囲とビジネスモデルはは無限になる。

トップ写真:長らくご無沙汰しているラスベガスの街角やホテルは、無数のデジタルサイネージで溢れていた。