別次元の泳ぎ


クロールの際の手はなるべく水の抵抗を無くしつつ斜め前方向に入水させるべきだが、そうでないスイマーも数多く見かける。家人もたまに一緒にプールに行った場合など「バカ!バカッ!」と昔のメロドラマで女性が男性の胸元を叩く様な仕草に近い動きで水を叩いてしまっている。これでは前方に進もうとする体に対して自らブレーキをかけている様な物であり、決して効率の良い泳ぎ方とは言えない。

漁師町の海辺で磯遊びをする事から泳ぎを覚えた私は、従って残念ながら水泳をきちんと習った事はないのだが、幸いに高校時代に水泳部だった友人のアドバイスのおかげで、如何に水の抵抗を減らしつつ効率的な泳ぎをするか、もちろん素人レベルではあれども、少なくとも理解しているつもりである。


であるにもかかわらず、何故かその様に自らが抵抗になりながら泳いでいる人達と比べて、自分では華麗な泳ぎをしている筈の私のスピードがあまり変わらないと言う事にある日気付いた。

そこで早速水泳部出身の友人に問い合わせた所、下半身が沈む事によって抵抗が増しているのではないかとの回答。更に、その姿勢を矯正するにはバタ足の練習によって腰を浮き上がらせる様な感覚を掴むしかないと言う。


50mや100mでは余り意味がないと言うバタ足の練習を、そう言う事ならとそれ以降は必ず500m以上取り入れる様にしているのだが、このキツさには閉口している。連続で100mどころか当初は50mで既に息があがってしまい、横ですいすいと泳ぐお兄さんお姉さんを尻目に肩で息をしながら辛い訓練に没頭している。如何に普段使わない筋肉を動かす事が大変か、また如何に普段は非効率的な泳ぎをしていたのかを痛感するのである。


さて、少しずつではあっても姿勢は矯正されて来ているのか、クロールもバタフライの際も、稀に自分の体が少し浮き上がりながらプレーニングでもしている様な感覚を覚える事がある様になって来た。それは、これまでとは全く違った感覚である。友人からのひとつのアドバイスによって、非常に低いレベルではあっても自分にとっては別次元の泳ぎが出来ていると言う事に喜び驚き、蛇の道は蛇よろしく、自分がまだまだ知らない事で埋め尽くされているこの世の中の事をもっともっと教わりたいと思う、少し謙虚さが身に付いて来たメタボな40代の独り言である。

トップ写真:いつもお世話になっている地元のプール「リネツ金沢」。この施設の施工をしたと言う巴コーポレーションのウェブサイトより。