エンティティとプレゼンテーションの混同


文章(ドキュメント)データは、エンティティとプレゼンテーションとプロパティから構成される。大まかに言えばエンティティとは実体即ち内容そのもの、プレゼンテーションはフォントや文字の大きさや色等見せ方の工夫、プロパティは誰が何時書いた何という名前の文章かと言う主に管理のための情報である。
ブログが影響力のある一つのメディアとしての地位を確立し、また多くのウェブサイトがブログシステムに端を発したCMSに置き換えられて来ている理由のひとつに、煩わしいウェブサイトの更新業務から開放された書き手が、エンティティつまり文章の中身の記述に最も多くの時間を割くことが出来るようになった点を挙げる事に反論はないだろう。もちろんRSSトラックバックへの理解と普及も大きな要因であることに違いはないが、そもそものブログ・ウェブサイトのコンテンツが存在しなければこれらの枠組みも効果を発揮しようがない。

いずれにせよ、テキストデータとデジカメ写真さえあればある程度は見た目が綺麗なサイトを誰もが気軽に運用することが出来る事のメリットは計り知れない。

アップルが提供するプロダクトの多くは、使いやすさと同じ重要度で見た目の綺麗さ(プレゼンテーション)が考えられている。今では常識といっても過言ではないノートパソコンのパームレスト(キーボード手前の手のひらを置く部分)を最初に設置したのがアップルだったことをご存じない方も多いと思うが、同様に印刷物かと見間違うほどの画面表示を実現したOSも、周囲の照明の明るさに応じて光るキーボード等もアップルならではである。
この様に同社が提供するハードウェアやソフトウェアには、他社の追随を許さないデザイン面でのアドバンテージが依然として存在するが、これとてマーケットシェアという点では常に後塵を拝し続けているWindows機との懸命なる差別化の努力の結果であるとも言える。

この様に製品デザインではアドバンテージを持ち続けているアップルではあるが、しかしながらネットワークサービスではどうなんだろうか?
iWebやiCalとmobile me(.Mac)との連携は、利用方法自体は簡便であるものの実際に絶え難い程の処理時間を要する事もあり、またiCalの同期等はMacのパフォーマンスを信じられない度合いで占有することもある。アプリケーションというよりもむしろデスクトップアクセサリに近いカレンダーソフトがCPUの50%以上を消費してしまう事等、本来ならば考えられないことである。
残念ながらアップルが提供するのは簡便であっても遅い、極めて使いにくいウェブサービスと言わざるを得ない。

例えば、文章を書くのが決して早くない私は、この記事も何回かにわたってキーボードに向かって完成させる事になるのだが、自宅や事務所、或いは打ち合わせの空いた時間や移動中の電車の中といったさまざまな場所で、時にはiMac、時にはPowerBook、そしてある時はWindows機といった具合に複数のデバイスを使って記述している。ここでネットワークサービスに期待したいのは単なるテキストデータ(エンティティ)の同期であり、見た目の綺麗さ(プレゼンテーション)ではない。

Googleのオンラインドキュメント、メール、RSSリーダ、写真等のサービスの充実とともに、複雑な作業以外は全てブラウザのみで完結出来るようになりつつある事は即ち、ハードウェアやOSへの依存度が低くなる事でもある。アップルにはイノベーションのベクトルを再度考え直してもらいたい。

トップイメージ:使わなくなって久しいRSSリーダ。今では、この様に未読フィードの数に目も当てられなくなることもなくなった。それにしても、GMailGoogleリーダーのショートカットは、もう少し共通化できないものだろうか。