Macworld、Appleイノベーションの崩壊


決して私が少数派であるとは思わないが、非常に楽しみにし且つ期待もしていたAppleによるネットブックの発表が行われる事はなかった。

その代わりに登場したのが、アップデートされた17インチPowerBook業界標準の3倍の性能を誇るらしいバッテリーを搭載している事が強調されていたものの、何と取り外しは不可であり、従って予備のバッテリーを携帯することも出来ない。私はそもそも鞄に入れて持ち運ぶには大きすぎるこのコンピュータを欲しいと思ったことはないが、ネットブックのみならずMacMiniのアップデート等を待ちわびていた数多くのユーザは肩透かしを食ったと感じたのではないか。


iLifeに関して言えば、iPhotoが従来のイベント単位での管理に加えて、人や場所といった括りで写真を管理出来るようになった事やFlicker等のオンラインサービスと連携するようになった事等は評価できる機能追加だとしても、既にGooglePicasaでは同様の機能が無償で提供されている。顔認識(Face Detection)を実装した事は真新しく、以前同様の技術に触れることが多かった私としてはその精度に興味は覚えるものの、それが直接的な購入のモチベーションにまでは結びつかない。
iWebがやっとFTP機能を実装したと聞いてもむしろ空しさを覚えてしまう。


私が数年間使っていたWindowsの環境を捨てて、Macintoshに戻る直接のきっかけのひとつになったKeynoteが追加実装した新しいトランジッション等にしばらくの間は目を引かれることになりそうだが、iWorkスイートがiWork.comというオンラインサービスと連携すると聞かされても、既に慣れ親しんだGoogleドキュメントから十二分に恩恵を受けているユーザの心をどれほど動かせるのだろうか。
しかも、iWork.comではウェブベースでの編集機能が提供されないため、編集するにはダウンロードとアップロードを作業の前後に実施する必要がある。現在この記事はGoogleドキュメントを利用して書いているが、原稿を書き進むのと同期しながら隣に並べたPCに表示した同じ書類が何もせずとも4〜5秒後には勝手に更新されるのを見るにつけ、自然と近い将来のiWork.comの失敗を想像してしまう。


今回の発表の中で私が最も購入意欲を刺激されたのは、Keynote Remotoという、iPod touch/iPhone用の約100円のアプリケーションだったが、もはやAppleMacintoshとソフトウェアの組み合わせだけでは他社の追随を許さない革新的なソルーションの提供が出来なくなっているのではないか。
一早く.Macという統合的オンラインサービスを開始したAppleは、その動作速度の遅さやMobile Me提供時の不手際で大きくGoogleの後塵を拝する事態に陥り、2009年のコンピューティング環境を牽引しパーソナルコンピュータの真のコモディティ化を実現するとも言われているネットブックを真っ向から否定した。Steve Jobs氏が不在のMacworld同様に、常にイノベーションの最先端を走っていたAppleという企業から一番大切なDNAが欠落してしまった気がする。利用者が想像する以上のものを見事にエレガントに具現化し喝采を集めていた企業が今回San Franciscoにもたらしたものは、大きな溜息に過ぎない。Phil Shiller氏のKeynoteを締め括ったと言うI left my heart in San Franciscoのメロディーがが何故か物悲しくも響くのである。

トップ写真:Keynote Remote、115円。その使い勝手が気になる。