読書とGoogle Map

鬼平犯科帳でくすぐられた読書意欲を満たすために司馬遼太郎の「菜の花の沖」に手をつけたのですが、これを読むのは2回目だったにも関わらず記憶力が欠落しているかの如く新鮮な感動とともに一気に読み終えてしまいました。

機敏に富んだ商人でもあり、且つ独自に磨いた哲学と運命の悪戯によって図らずとも日露の間で外交官の役割をも果たす事にもなってしまった主人公の高田屋嘉兵衛ですが、その人生の大部分は航海者でもありました。嘉兵衛が故郷淡路島を離れ、その後自分の船を手に入れつつ兵庫を拠点に北回りの北海道航路で活躍していくのにつれ、日本近海を文字通り縦横無尽に帆走りまわるその生涯は羨ましい限りなのですが、そんな今回の読書を通じて、実は常に私の傍らにあったのは愛機PowerBook。嘉兵衛が切り開いた北方の航路や島々、特に厚岸から千島列島付近を彼が航海している場面では、その航路や島の様子をGoogle Mapで表示しながら参考にしていたのです。



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もちろん、思わず嘉兵衛が息を飲んだ北の島々の美しさまではいかにGoogle Mapと言えども表現しようがないのですが、特に地形表示モードでは島々の火山や平地の様子が実に克明に再現されているので、「ああ、この浜に彼は上陸してあの山を臨んだんだろうな」とか「海から見た場合のこの島の景色は険しそうだな」と、現地の風景や様子を想像する非常に強力な手助けをしてくれる訳です。
それにしても、司馬遼太郎の小説は何と様々な蘊蓄を含んでいるものかと、いつも感嘆させられてしまいます。
例えば,マトモという言葉は少なくとも私が使っているOS Xことえりではちゃんと変換されませんが、一枚帆の千石船が船の後ろ(艢=とも)から受ける追い風を真艢(まとも)の風と呼んだ事がその語源である事に触れた一節を読んだ時には、「ほー、なるほど」と思った事があり、一度結婚式の祝辞を仰せつかった際には引用もさせて頂いたものです。

トップ写真:菜の花の沖、皆様も是非ご一読を。日本が米を中心とした農本主義から貨幣経済へと遷移して行くその過程も良く解る歴史小説です。