行ってらっしゃいませ〜楽しく怪しい男たちの野毛の夜〜

道州制度が昔から導入されているスペインはアンダルシア州政府の州都でもあるセビリア(スペイン語読みではセビージャ、ちなみに英語はセビル)の夜の楽しみと言えば何と言ってもBAR(バル)巡りです。スペインで言うBARとは日本で言う綺麗なお姉さんがいる様な店でも、十数年前にトレンディードラマとともに流行したCafe Barでもなく、いわば喫茶店とレストランと一杯飲みやとタバコ屋を足してその数で割った、どんな小さな村でも必ず一軒はある寄り合い所の様なものです。よりレストラン色が強い店やほんの軽食程度しか出さない店、場合によっては雑貨屋を兼ねているケース等もありその業態は様々ではありますが、夜のBAR巡りではそれぞれの店の自慢のつまみ(TAPAS:タパス、店によってはグラス一杯のビールやワインに無料でついて来る事もあり)と店主や常連客とのお喋りが何と言っても楽しい物です。
いつかもし私が日本で飲食店を開くとすれば、こんなスペインのBARのような気軽で普段着の大人の社交場の様な店にしたいと思っているのですが、先日は仕事で親しくして頂いている会社の社長にお連れ頂き、横浜は野毛の店をはしごするというまるでスペインに住んでいた頃の様な飲み方をする機会がありました。横浜に暮らしてはや10年を超える私ですが、ただただシンプルに“楽しい!”と言える街を知らずに過ごしていた事を勿体なく思う程です。


野毛デビューとして先ず訪れたのはイタリアンバル「BASIL」。まさにスペインやイタリアのBARと同じ様に、立ち飲み席とテーブル席が効率よくレイアウトされた店内では、着飾った初老のご夫婦が小さなテーブルでワインと料理を楽しんでいらっしゃり、「何ておしゃれなカップル、さすが横浜だなぁ」と感激してしまいました。


2軒目はお連れ頂いた社長の同級生がおかみさんをされている居酒屋「横濱みらいや」。ご主人が作る美味しいおつまみと沖縄でも余り見かけない北谷の泡盛「長老」と言う取り合わせで我々一行3人は既に上機嫌に。遠くに見える自宅へと続く京浜急行の駅には目もくれず反対方向にある3軒目へと向かいました。


次にお邪魔したのが、Bar Restaurant「無頼船」。

木の暖かさに包まれた店内は常連客で賑わい、店の自慢のチャーシューとカウンターの中の爽やかな笑顔のお嬢さん、そして強面でありながらも優しい笑顔のマスターに誘われ我々おじさん3人のうちの新参者2名は「楽しい美味い、美味い楽しい」を連発。


4軒目は少し趣向を変えて静かなBAR。壁一面に名画が投影されたその名も「キネマ」という名の通り映画がコンセプトのお店のマスターは、野毛地区の2大イケメン店長の一人との事、そう言えば心無しか女性客の方が多かった様にも思いますが、既にこの辺りから余り記憶が定かではありません。


午前3時近くに入った5軒目の店は大変活気がある綺麗な女性が沢山いる飲み屋さん。残念ながらお店の名前も、彼女達とどの様な会話をしたかもまるで覚えていませんが、「今何時だと思ってるの?」と家人からかかって来た電話の事だけは覚えています。

さて、最後の締めの6軒目は「くつろぎの店手料理てづか」。カウンターだけの清潔なお店は何と朝5時までの営業。寡黙そうなご主人が作ってくれた料理を少しつまみましたが、どれもしみじみと美味しく頂けました。

私以外のおじさん二人は「やわらかトンカツ」なる絶妙なネーミングの一皿を注文、あまりカロリーをとり過ぎてはいけないと医者からきつく言われている私は「やわらかトンカツ、やわらかトンカツを喰いたい」とつぶやきながら閉店間際に店を出て既に明るくなった空の下、家人への言い訳を考えながら帰路についたのでした。


あー、楽しかった!ご馳走になった横浜のM社長、大変楽しい夜を有り難うございました。
いつもはしご酒をするというM社長の行動癖を知っての事なのか、それとも野毛の伝統なのかは最後まで解りませんでしたが、行く先々のお店を出る時に「行ってらっしゃいませ」と声をかけてくれた事が心地よく耳に残りました。

トップ写真:怪しくも楽しい野毛の夜