「である」調で語るメディアの在り方 -1-


新聞から得られる情報のほぼ全てが、それが例え遠く離れた地方紙の内容であったとしてもインターネットを介して“無料で”得られる今日、我が家で新聞の購読停止を決断して既に数年が経過した。私にとっては心残りであった折り込み広告についても,駅前の商店街がコンビニと居酒屋の繰り返しに過ぎない地域に住み、近接する大型商業施設をほぼ毎日利用し,不動産のチラシも求人広告も不要な我が家にとってはもはや殆ど意味をなしていない事に気づいたのである。新聞の購読を止めるにあたっては、新聞がない事によるその後の不便さについて一通り家人と話をしたが、夏休みや年末年始に自宅を留守にする機会が多い我が家にとっては、購読一時停止の連絡を忘れる事によって新聞受けに新聞が溜ってしまうという防犯上のデメリットも加味された上での決定となった。

その後は、私が普段から購読している幾つかのニュースサイトに家人のそれも含まれている事から、ほぼ同じニュースを同じタイミングで入手している事になるため、自宅を留守にしがちの私にとっては社会の時事に関して電話やメールで会話をする機会が以前よりもむしろ増えた様にさえ思われる。

パソコンで最新の新聞記事を読む事、もちろん画面の大きさの差はあれども、それは小さい頃に読んだSciFi小説の中に登場していた壁掛けテレビが新聞の役割を果たしているリビングのシーンを彷彿させなくもない。あの頃描いた未来は、部分的であるにせよ既に現実のものなのである。

全国の新聞社もほぼ例外なくウェブサイトからニュースを無料で配信している現在、少し興味を引かれて各サイトのRSS配信状況を一つ一つ調べてみた事がある。インターネット時代に新聞と言うメディアが今後も継続して発展して行く為には、ニュースと言うコンテンツをそれぞれの地域で生産(決して捏造と言う意味でなく)し、それをインターネットで配信して行くという枠組みに立脚した収益モデルの確立が今後は一つの大きな事業の柱になる筈であり、その意味でコンテンツホルダとしての新聞社が、自社のコンテンツの露出機会を高める手段としてRSSをどれほど認知して利活用しているかを知りたかったからである。

ご存知の様にRSSは、例えばニュースであればその要約(一般的には最初の数行)と作成時間やURL情報等を一定の決まり事に則ってXMLで書き出したもので、RSSリーダと呼ばれるソフトウェアが、予め指定した一定の時間毎にそのXMLファイルの更新状況を自動的にチェックして新しいものをパソコンにダウンロードすると言う仕組みであり、多種多様な情報が時間や空間の制限を超えてやり取りされる今日に於いては、自分が求める情報を効率的且つ的確にしかも第三者の意図を介さずにウェブから引き出す、殆ど唯一の手段であると私は考えている(※)。視聴者・読者はタイトルやヘッドラインからその情報の重要性を判断し、自分が求める情報であった場合にはサイトから情報の全文を取得すれば良く、そうでないものは即座に消去すれば良い。

※例えば、Googleが把握している(検索対象になっている)ウェブコンテンツは全体の1%に過ぎないと言う話もある。また、SEO違反という理由で、BMW社のサイトがGoogleで検索されない“Google八分”という措置に遭った事をご存知の方も多いだろう。

見落としの可能性は決して否定しないが、調べた結果約50の新聞社のうちRSSを配信しているのは10社に過ぎないという結果であった。これは、私が普段使用しているブラウザであるSafariが自動的にRSSフィードの存在を認識したケースと、そうでなくともトップページの目につきやすい箇所にRSSへのリンクを示したアイコンが表示されているケースの合計であり、積極的にRSSを配信している新聞社サイトは約20%と言っても差し支えないだろう。

それ以降、これら全てのRSSを登録する事によって各地の新聞のローカルニュースを毎日チェックする(出来る)事になった私は、従って、昔知人がいた愛知県の瑞浪市の陶器会社の作品がNY美術館のネット販売で通販されている事も知っていれば、倉敷市にある築130年の蔵で専門家と市民が科学談義を行なっている事、サバニレースの練習をしている石垣島の漁港内で300キロ近いオオメジロザメが捕獲された事も、岡山市内の一部が路上禁煙になった事も,小豆島でイチジクの出荷が始まった事も知っている。これらの記事の“存在と概要”に関する情報は全て、各新聞社のそれぞれのサイトを開かずとも自動的に得られるのである。



佐賀新聞社が配信するRSS。右に表示された3つの記事のうち、下の2つのフィードにRSS広告が付与されている。

出張が多い私にとって、例えば近々出張で訪れる予定の地域の新聞を気軽に確実にチェックする手段としては少なくとも最良であり、訪れた地域の方との話題に困らない事が多い。

さて,ここである疑問が生じるかもしれない。もし豊富なバナー広告に彩られたサイトへの誘致をメインに考えないとしたら、コンテンツホルダたる新聞社が収益を何処であげるのか(あげるべきか)、という問いである。

ここでは、10社程度の新聞社サイトを訪問する時間的余裕位はある(実際、それを毎日繰り返す事は私には苦痛だが)、というご意見には耳を塞ぐ事にする。

私がいるITの業界でも広告業界でもパーソナライズド広告というサービスをいかに実現するか、という議論が始まって久しい。例えば車を買った個人に対して、1年後に新型のカーステレオを、2年後にはタイヤの、そして5年後には車の買い換えを促すCMを提供すると言うモデルであったり、雨が降っている地域に傘のCMを流すと言うモデルがそれである。iTunes Storeのリコメンド(お勧め)もこれにあたる。

このうち前者については、読者やサイトの訪問者が能動的に消費活動のログや趣味嗜好の基礎情報としての提供を許諾する何らかの仕組みが前提となっている為、個人情報の保護に関する法律が施行され、またその流出が社会問題化している今の日本では、技術的な問題よりもむしろ社会インフラの面で実現への取り組みが阻害されており、且つ業者もモチベーションを保てなくなって来ていると言える。そんな中で大変有意義な取り組みを佐賀新聞のサービスの中に見いだす事が出来た。それは,記事の抜粋とともにその記事内容に関係する広告を提供するRSS広告である。

(続く)

※本エントリーは、後日加筆修正する可能性があります。

トップ写真:夏の終わりを告げる恒例の近所の花火大会。今年も盛大に行なわれました。トリのスポンサー企業による花火には毎年鳥肌が立ちます。いつかは,私が勤める会社もスポンサーになれる日が来るでしょうか。